プロジェクト推進担当より | すな場

プロジェクト推進担当より

プロジェクト推進担当 早川唯
●「すな場」についてお話しする前に
私は現在、保育士紹介会社「すな場」のスタッフとして保育士と園の間に入り、両者の手と手を繋ぐお手伝いをしています。

「すな場」についてお話しする前に 私のことについて少しお話しさせていただきたいと思います。 私は東北で保育園の園長をしていた祖母の影響で保育の仕事に興味を持ちはじめ、 大学入学と同時に保育の勉強を始めました。 勉強をすればするほど、保育の世界は奥深く、ますます保育への気持ちは強くなっていきました。

いざ就職活動の時期になると、 学校や先輩・友人から受けるアドバイスは「自分に合った園を見つけよう」というものでし た。 とにかくいろんな園を見れば、自分の感性にひっかかる何かと出会えるかもしれない。 地域・規模・施設の種別にこだわらずたくさんの園に訪問しました。 しかし、「施設の新しさ」「定員の規模」「待遇の良さ」等、 求人票に書いてあることと同じ内容しか比較できていないことにすら気づかないまま、 「ここよりも、もっと良い園があるかもしれない」という思いがぬぐえない日々。 次第に「どんな場所でも子どもは子ども」と思うようになり、 家族や友人と離れずに生活できるという安易な理由で地元の幼稚園に就職しました。

入職すると、離職率は高く、少ない職員で何とか毎日を乗り越えている状況でした。 盛大な行事や園児獲得のための園アピールの裏で、 サービス残業や休日出勤、大量の製作物を持ち帰る職員。 子どもは毎日、行事やコンテストの練習。 「先生、練習が終わったら遊べる?」 そんな子どもの言葉に行事よりも毎日の保育を丁寧に積み上げていきたいという私の思いは膨らんでいきました。 園の方針と自分の気持ちが交わらない環境で、保育を続けることに限界を感じ、すぐに退職。

待機児童解消のために、保育園が増え続ける中で、加速する園児獲得競争と不足する保育士。 保育士一人あたりの負担は大きくなるばかりで、改善されることがない就業環境。 だからこそ保育士資格を取っても、保育現場から離れている潜在保育士が 全国で60万人以上もいる現実があります。

また、子どもを取り巻く環境を良くするために 現場の第一線にいる保育士の働く環境に目が向けられたことがあったのでしょうか。 子育てに両親の安定が必要なように、 保育現場にとっても保育士が安定して保育に集中できる環境が こんなにも重要なのだと実感しました。
●心機一転、上京
環境を変えて関東で保育の仕事を探そうと上京。 しかし園選びに不安を抱えたままの私が、 新しい土地でたくさんある園の中から就職先を選ぶことに難しさを感じ、 いくつかの保育士紹介会社に登録しました。

「田舎から出てきて、土地感もないし、求人票の内容だけでは実際の就業環境や保育内容が分かりません。直接お会いして、園探しの不安や園の雰囲気などをお話ししたい」 そのような私の気持ちに向き合ってくれる紹介会社はありませんでした。

「メールや電話の方が、より早く園をご紹介できるので、お会いすることはできません。 希望の園の条件があれば、メールでご連絡ください」 と面談自体を断られたり、 「あなたに合う園を紹介します!」という紹介会社も、 マッチングの内容は給与の希望と通勤距離だけでした。

「どんな保育をしているんですか?」 「職員の方の離職率はどのくらいですか?」 という一歩、踏み込んだ質問には、「園見学の際にご自身でご確認ください」と 結局、保育士紹介会社から得られる情報は求人票に記載されている内容だけでした。
●すな場のはじまり
園探しの不安を抱えたまま、保育現場に入職する決心がつけられずにいた中、 保育業界の採用の仕事を担っている会社があることを知りました。 保育の採用の仕事なら自分が好きな保育から完全に離れるわけではないし、 自分の経験を活かせるかもしれないという思いから入職を決めました。

そこで保育園の採用業務に携わったときに保育業界の就職活動の実態を知りました。 「保育士が足りなくて、採用まで手が回らない」と現場の保育で精一杯な保育園 「入職前に気付けなかったことがたくさんある」と入職後に園選びを後悔する保育士

一言で保育士と言っても地域や園によって、働き方や環境、保育の中身は全く違います。 しかし現在は園にとっても、求職者にとっても就職情報がとても乏しい。 私自身が感じていた問題は、保育に携わるたくさんの人が抱えていたことだと知りました。

間に立っている紹介会社が求職者のことも園のことも深く知らずに一方的な紹介では、 保育士は『入っては辞める』を繰り返すだけで、根本的な問題は解決しません。

必要なのは入職して終わりのサポートではなく、 お互いにありのままを理解し合える園紹介。 ずっと続けることができる職場づくりと人材づくり。 それが実現できれば求職者と園にとって本当の出会いをつくることができるのではないか。 そんな問題意識を抱いているたくさんの方々の思いが集まり、始まったのが『すな場』です。
●すな場に届くたくさんの声をカタチに
すな場として保育士の方と手を繋ぎ、一緒に園探しをしていく中
「長く働ける園を見つけたい。でも何を基準に選んだら良いのか分からない」
そんな声が多く聞こえ、自分に合った『園を見極める』ということの難しさは 多くの保育士が抱いている悩みだということを感じました。 園を紹介するだけではなく、 一人ひとりに合った『園を見極める方法』を伝えていくこともすな場としての役割です。
その他にもすな場には毎日、たくさんの声が届きます。

「資格はないけど働きたい」
「産まれたばかりの子どもがいるため短時間しか働けない」
「自分たちの園の良さが求職者にどうすれば伝わるのか分からない」

働くうえでの不安をひとつひとつ取り除かなければ、 やりたいことを諦めたり、妥協をしてやりたくない仕事をするしかありません。 このような皆さまの「なんとかしたい」という思いがカタチになったのが すな場の深いヒアリング、無資格者支援、変形時短勤務、人材採用サポート等のサービスです。

また、すな場にとっての園紹介はまだスタート地点です。 キャリアアップを目指してバリバリ働きたい方や 結婚、出産、子育て等ライフステージに合わせて、働き方を変えたい方など、 ひとりひとりの働き方に合わせた職場をつくるために 入職してからのサポートにも力を入れています。

もともと「良い保育をしたい」という気持ちで保育の世界を目指していた私ですが、 今は直接子どもと関わる仕事はしていません。 しかし違う角度ではあるけれど、 保育士の働く環境が良くなることで、子どもの保育環境が良くなっていくことを願っています。

これからも一つ一つの声と向き合い、 「大好きな仕事と出会い、続けることができる」社会を作ること。 それが「すな場」として一番大切にしていることです。





プロジェクト推進担当 福﨑真奈美
●今、一人の母として
私には二人の子どもがいます。3歳の娘と1歳の息子。 二人は今私立の認可園に通っています。 長女はこの園に決まるまで、無認可の保育園と、公立園の一時保育に通っていました。 私が住む地域も、ご多聞に漏れず待機児童が多く、 二人を預けることになるまでは、たくさんの園を見学に行きました。 様々な園を訪れる中で、私はそれぞれの園の持つ多彩な魅力に出会うことになります。 自宅を利用した無認可園では、わが子に接するかのように目を輝かせて 娘の成長を語ってくれる園長先生がいました。 公立の保育園では、はだしで園庭を走り回る子どもたちを おおらかに見守る先生たちがいました。 見学に行くと、子どもの成長を支えるために凝らした、たくさんの工夫に驚かされました 。 そして日々の保育日誌からは、その専門的な視点と、あたたかなメッセージが いつも感じられました。

日々子育てに悩みながら向き合う一人の母として、保育園というパートナーは、 とても心強い存在です。 そこに働く先生方には、いつも子どもたちの心のよりどころとして、 安心して、そして誇りを持って働き続けてもらいたい。 一人の親として、そう願ってやみません。 園の持つ魅力や思いと、求職者の方の持つ、魅力や思い。 それぞれを理解し、橋渡しをするのが、私たち「すな場」の役割です。
●答えのない仕事の、パートナーでありたい
思えば、私が初めて明確に持った「夢」は保育士でした。 近所に自分より年下の子が多い環境で育ち、 「小さい子ってかわいいから」というなんとも安易な理由からです。 その後、小中学生の野外活動リーダーとして活動したり、通信制高校の講師として働く中 で、 「子ども」がただかわいいだけという存在ではなく、 「扱いにくい子」もいれば「生意気な子」もいる、 「一人ひとりの人間」なんだという当たり前の事実に気づきました。 そして、「一人ひとりの人間」と心を通わせ、ともに成長していくことは こんなにも自分を豊かにしてくれるんだと知りました。 子育て、保育、教育の現場に通じること。 それは「正解がない」ということだと思います。

明確な答えはないけど、目の前の「一人ひとり」のために「より良くしていきたい」。 現場では、そのために試行錯誤し、奮闘している先生がたくさんいます。 そんな、現場で働く方々を支えていきたいという思いから、 すな場では就職後も、「働き続ける」ためのサポート、 自らを「高める」ためのサポートを行っています。 それが職場改善研修や、就職後も続くカウンセリング、資格取得支援です。 現場を、子どもたちの過ごす日々を「より良くしていく」伴走者として、 私たちは共に頭に汗をかいていきたいと思います。
●どんな人も、笑顔で働ける社会に
「自分は30歳くらいまでバリバリ仕事して、30代で結婚して子どもを産むのかな」 なんとなくそんな気がしていましたが、予想は見事に外れました。 社会人となって3年目、結婚。1年後、妊娠をきっかけに、退職しました。 その時働いていた会社では残業や土日出勤、出張もたくさんこなしていました。 責任のある仕事も任せていただいていましたが、 つわりや急激な体の変化、「この命を大切にしたい」という感覚、 どんどん大きくなるおなかを抱え、このスタイルで働き続けることに 困難を感じたのです。

退職後、安定期を過ごす中で、「在宅で働く」という選択肢に出会いました。 仕事をすることにやりがいを感じていた私は、 出産2週間前までと、産後子どもの生活リズムが落ち着いてから、 在宅で働くスタイルに移行しました。 女性は結婚や出産で、ライフスタイルが大きく変化することが多いのが現状です。 その都度、仕事をどうするのか、どんな生活スタイルに変えていくのか、 悩み、考え、選択を迫られます。 悔しい思いや、どこかあきらめの気持ちを持ちながら、 仕事を手放す女性も少なくありません。

その後、仕事に復帰するためには、待機児童問題や、ブランクに対する不安、 子どもがいることでの成約など、さらなるハードルが待っています。 子どもが成長すれば学童問題、習い事との兼ね合い、 年を重ねれば介護の問題が出てくることもあるでしょう。 私はこの問題に直面し、「なぜ女性の働く環境はこんなにも困難が多いのだろう」と とてももどかしい気持ちになりました。 きっと私も、子どもたちの成長や、家族のカタチの変化に伴って、 また課題に直面し、悩み、選択していくことでしょう。 この困難を少しでも減らすためには、 ライフスタイルに沿う、「いろいろな働き方」が必要なのではないかと考えています。

時間限定の勤務や、在宅での勤務、資格や得意分野を活かした講師業。 まだまだ入り口ですが、さらに働き方のバリエーションを増やし、 多くの人が、「今の自分」に沿った、誇りや愛着の持てる仕事に出会い、 続けていける社会を目指しています。 そうして、笑顔で働き続ける人が一人、また一人と増えるように。 「すな場」は一歩ずつ歩み続けたいと思います。